work88 材料の違いでトラブル?染色塗装
前置き
今回は過去記事でも紹介した事のある塗装法で、木部への塗装法である「染色」という塗装法の着色材料の違いによるトラブルなどを書いてみたいと思います。
塗装作業には大まかに分けて5つの塗装資格がありまして、各職業にわかれています。染色塗装は主に木製家具などの塗装法で塗装の分野でいえば「木工塗装」の分野になります。
ですので、この記事はある意味プロの方向けなのですが、面白い現象でもありますので書き記しておきます。
染色塗装についてはこちら
トラブルの概要
今回取り上げるトラブルは、プロの方でも「知っている人は知っている」のですが、「知らない人は全く知らない」ものです。
染色塗装については過去記事を参照して頂くとして、木に色を染み込ませる為の染色剤(着色剤) は大まかにわけて、溶剤系と水性系の2種類です。
過去記事で書いてある染色法は「砥の粉(とのこ)」を使用した、水性系の染色剤(着色剤)を使用しています。
今回紹介するトラブルは主に溶剤系の染色剤(着色剤)になります。
下地(木の素地)が水で濡れて、後に乾燥すると濡れた跡は分からなくなるのですが、溶剤系の染色剤(着色剤)で染色すると、「濡れた跡」がハッキリとわかるというトラブルです。
因みに、水性系の染色剤(着色剤)ではこの現象は殆ど起きません。
文字だけではわかりにくいので、以下にサンプルを作成して画像とともに解説したいと思います。
サンプル準備
今回のサンプルは「突板(つきいた)」というもので「ベニヤ板に木の皮を貼った物」です。「貼った木の皮」の種類で様々な表現や、安いベニヤ板などの製品のクオリティを上げる事が出来、家具や天井、壁などの色々な製品の材料として使用されています。本物の木でもあり、偽物の木でもあります。
この突板の中心にマスキングテープを貼り、「右側に溶剤の染色」、「左側に水性の染色」をサンプルとして行ってみたいと思います。
なお、サンプル作成は適当に行っていますので、染色のクオリティは低いです。
水で濡らす
突板の素地に水で「P」の文字を書いてみました。水で書いた文字なので、乾燥すると当然消えてわからなくなります。この「P」の文字の上に溶剤の染色を行います。
左側には「W」の文字を同じ様に書きました。右側の文字が乾燥して消えていますが、他意はありません、同じ様に水で文字を書いています。
水が乾燥
水が乾燥して、右側は「P」、左側の「W」文字が消えてわからなくなりました。
染色(目止め色付け)
右側は溶剤の染色、左側は水性の染色を行いました(染色剤を塗布し、ウエスで拭き上げた状態)。左右の色が違うのは残っていた材料を使用したためで、同じ色で行っても結果は同じです。
右側溶剤の染色は「P」の文字がハッキリ出てきました。私が書いたPの文字の右下あたりにも「太い線」のようなものが現れて「R」の文字のようにも見えます。
これは、私が文字を書く前から「濡れていた跡」だと思います。
クリヤー仕上げ
上の状態から、下塗りとして「ウレタンサンディングシーラー」を2回塗り、「100%艶消しウレタンクリヤー」を塗って仕上げてみましたが、「P」の文字はそのままです。
また、右側は染色のムラが酷く、この突板が「水文字を書く前から水で濡れた跡」があった事がわかりました。適当に塗ったのでよく見れば左側もムラがありますが、「W」の文字は出てきていません。
結果から考える事
水で濡れた跡は乾燥してしまえば、一見すると全然わかりません。
この様な突板や木材などを使用して家具や製品を作成する際には家具製作の方が製品を作成するのですが、作成する際には「木工ボンド」を使用します。
木工ボンドは乾いてしまうと「透明」になってしまうので一見わからなくなりますが、素地に誤ってボンドが付着していると、染色や着色の際に色が染み込まず、ボンドの跡が白くハッキリ浮き出てきます。この様な事は製作する人によって「よくある事」で、塗装する側からすると「配慮が足りない」と思う事柄です。
製作が上手い人でもボンドで接着する際に「木の素地にはみ出たボンド」を濡れ雑巾などで拭き取ります。この際に、濡れ雑巾が木の素地についてしまうと「水で濡れた跡」が出来てしまい、その水の跡が上のサンプルの様に浮き出てきます。
また、人的要因ではなく保管場所や環境などで「水濡れ跡」が付いたりすることもありますので、作業前に何らかの処置や対策を行う必要があります。
解決法
なぜ、水で濡れた跡があるとこのようになるのか原因は色々と想像は出来ますが、私は無学なので正しい原因はわかりません。
ですが解決法としては、「全体を水で濡らす」事で解決できます。スプレーなどで水を全体に吹きかけてもいいですし、濡れ雑巾などで拭き上げてもいいですので一度全体を水で濡らす事で解決できます。
「水性の染色」 の場合に跡が出ないのは材料その物が水性なので「全体を水で濡らす」事が出来ているからだと思われます。
一長一短
溶剤の染色や、水性の染色 のどちらにも一長一短があります。
簡略化して述べるので「ちょっと何言ってるのかわからない」人が殆どだと思います。
溶剤の染色剤の長所
○溶剤系なので乾燥が早く、作業性がいい。
○遅延剤などを添加する事で乾燥を遅くすることも出来る。
○溶剤系なので染色剤を添加して「カラークリヤー」を作る事が出来る。
溶剤染色剤の短所
○上で挙げたような「水濡れの跡」が出来る。
水性の染色剤の長所
○調色剤のコストが安い
○昔ながらの塗装法なのでトラブルは少ない(水濡れ跡含む)
水性の染色剤の短所
○乾燥が遅く次の工程への作業性はあまりよくない
○仕上げのクリヤーが溶剤の場合は、染色剤を添加して「カラークリヤー」を作る事が出来ない。
最後に
今回は溶剤染色剤のトラブルについての記事ですが、どちらが良くてどちらが悪いとかはありませんし、こだわりなども必要ありません。
作業する者の考え方や作業環境などで変わりますが、 その時々でベストを選択出来るためにも自身の知識を広める事が大事なのではないかと思います。
今回はこの辺で。