work 68 錆止め塗料と錆転換剤
前置き
今回は錆止め塗料について書いてみたいと思います。
金属に対して塗装を行うときには下塗りとして、「プライマー」や「錆止め塗料」を塗るのが一般的ですが、すでに錆が発生している場合と、そうでない場合では、施工内容が変わったり(※主にケレン作業)しますし、使用する錆止め塗料の種類なども変わってきます。
錆止め塗料は一般用の物から公共工事、鋼構造物や橋梁工事などに使用されるものまでを含めると様々な種類があります。専門的な事を書いても一般の方にはあまり馴染みのない事の方が多いので、あくまで一般の住宅やDIYなどを対象とした内容で書きたいと思います。
※ケレン作業とは、錆を落とす作業の事でやり方や等級などがあります。
このケレン作業についても機会があれば別記事で書きたいと思います。
錆の種類
錆の種類は色々とあるみたいですが、今回は比較的一般に知られている4種類の錆を紹介します。
赤錆
多くの方が知っているであろう「錆」が赤錆です。黄色からこげ茶くらいまでの色で、主に「鉄」をボロボロに腐食させます。水と酸素のある環境で鉄が酸化して錆になるそうです。錆止め塗料は主にこの錆の予防に使われます。
黒錆
黒錆は自然に発生することはないそうです。主に、鉄の表面に人工的(加熱)に作られる酸化被膜のことだそうです。表面に黒錆ができると酸化被膜で赤錆の発生を抑えることができるそうです。 「鉄瓶」 や「中華鍋」などが黒いのはこの「黒錆」による酸化被膜だそうです。
白錆
アルミサッシや亜鉛メッキなどの「酸化被膜が破壊」された時に腐食し、溶けだした物が「白錆」のようです。詳しくは過去記事に書いています。
緑青(ろくしょう)
銅板屋根や銅像など、 10円玉などに使われている銅製品に出来る錆で、銅を守る保護被膜なので錆は錆でもいい錆の部類みたいです。武道館の「青緑色」の屋根などが有名です。
錆止め塗料の種類
塗料全般に言える事ですが、そもそも一般の方には馴染みの少ない塗料の話で、「錆止め材」という単語は知っていても材料の種類などは分からないと思います。ここでは、錆を抑えるために使う材料を紹介したいと思いますが、全てを網羅しているわけではありませんし、紹介しているメーカーや材料だけではありません。過去に私が使用した事のある一部の材料をピックアップしてみます。
紹介できていない メーカーや材料にも良い製品があることをお断りしておきます。
錆止め塗料
昔は「鉛」が塗料に入った「鉛系」が主流でしたが、現在では、人の健康に与える被害などを考慮して殆どがJIS規格から廃止されました。
「一般社団法人 日本塗料工業会」のHPでは、塗料中鉛の廃絶に関する取り組みが記載されています。
錆止め塗料は公共工事や大規模なプラント工事などでも使用される為、JISやJASSなどの規格に沿った複雑な種類別があり、1種・2種・3種・4種 などの種類と、A種・B種・C種 などの種別があります。ですので、多種多様な錆止め塗料が発売されていて、1記事で紹介出来る事はできないです。
一例ですが、1種と2種では、
1種は防錆効果が高いですが乾燥が遅く作業性はあまりよくありません。
2種は防錆性が1種に劣りますが、乾燥が速く作業性が良いです。
といった、分け方になります。
一般的な住宅などでの現在の主流は、「1液型変性エポキシ錆止め塗料」や、「2液型変性エポキシ錆止め塗料」 などの、「エポキシ系錆止め」が主流になっています。エポキシ樹脂は密着性や耐久性に優れていますが、錆が残っている面に塗装しても錆を抑える効果はあまり高くないです。つまり、錆を綺麗に除去しないと本来の性能は発揮できません。
私の過去記事で、
トタン屋根に1液型の錆止め塗料を使用していますが、ケレン作業(錆び落とし)が十分ではありません。この記事の場合は、「予算的な問題」と、一般のトタンよりも厚みが薄く、「電動工具」などを使用すると「トタンに穴が開いてしまう可能性」があったためで、施主様と私の相談の元、作業しています。
仕事ですので、まずは「プラン」や「予算」があり、教科書通りの作業が出来ない場合も多々ありますが、その事も含めて、その時々でよりよい仕事が出来ないかいつも考えています。
1液ハイポンファインデクロ
メーカー 日本ペイント株式会社
商品名 1液ハイポンファインデクロ
タイプ 塗料タイプ
種別 ターペン可溶1液速乾変性エポキシ系さび止め塗料
私的備考:
2液変性エポキシ樹脂塗料と同等の防錆力を持ち、素速い乾燥性のターペン可溶1液さび止め塗料とのことです。錆止め塗料のハイポンシリーズは、水性や2液型など、用途によってさまざまな種類があります。(日本ペイント株式会社より商品名など一部引用)
カーボマスチック15
メーカー ジャパンカーボライン株式会社
商品名 カーボマスチック15
タイプ 塗料タイプ
種別 2液型浸透性厚膜エポキシアルミ塗料
私的備考:
手作業のケレン作業(錆び落とし)で、錆が残っていても錆に浸透し、強固に付着、保護する塗料だそうです。厚膜タイプです。(ジャパンカーボライン株式会社より商品名など一部引用)
錆転換剤(錆転換塗料)
錆転換剤は赤錆に直接塗ることで、化学反応を起こし、「赤錆を黒錆に変える」事を目的とした材料です。種類や商品も色々ありますが、一般的には「プライマータイプ」と「塗料タイプ」があります。
赤錆から黒錆に転換されれば錆の進行を抑えることが出来るようです。他にも、補助剤や軽減剤などの下処理材があります。今回はこれらの材料を中心に記事を書きたいと思います。
錆転換塗料というには語弊があり下処理材なども含みますが、似たような効果も含めて、私が使用した事のある物を紹介します。
ニッペハイポンサビスタファイン
メーカー 日本ペイント株式会社
商品名 ニッペハイポンサビスタファイン
タイプ プライマータイプ
種別 2液型弱溶剤さび面素地調整補助剤
私的備考:
ケレン作業で取り除けなかった錆面に塗り、防錆性を向上させる下塗り材です。この上から仕様に沿った錆止め塗料を塗る必要があります。(日本ペイント株式会社より商品名など一部引用)
サビシャット
メーカー 大日本塗料株式会社
商品名 サビシャット
タイプ プライマータイプ
種別 2液型塗布形素地調整軽減剤
私的備考:
ケレン作業で取り除けなかった錆面に塗り、防錆性を向上させる下塗り材です。この上から仕様に沿った錆止め塗料を塗る必要があります。(大日本塗料株式会社より商品名など一部引用)
ラストボンドSG
メーカー ジャパンカーボライン株式会社
商品名 ラストボンドSG
タイプ プライマータイプ
種別 2液型浸透性エポキシプライマー
私的備考:
ケレン作業で取り除けなかった錆面に塗り、防錆性を向上させる下塗り材です。この上から仕様に沿った錆止め塗料を塗る必要があります。(ジャパンカーボライン株式会社より商品名など一部引用)
サビキラーPRO
メーカー 株式会社BAN-ZI
商品名 サビキラーPRO
タイプ 水性塗料タイプ
種別 1液型水性錆転換塗料
私的備考:
この項目で紹介した4つの材料の内、塗料タイプはサビキラーPROのみになります。1液型の水性塗料で錆止めを塗る必要もなく上塗り塗料が塗れます。赤錆の上に塗ることで「赤錆を黒錆に変える」事により、錆の再発を抑える事が出来るそうです。(株式会社BAN-ZIより商品名など一部引用)
防食塗料
防食塗料は一般の方にはなじみが薄いと思いますが、「ジンクリッチペイント(高濃度亜鉛末さび止め塗料)」が上げられます。ジンクリッチペイントはとても高い錆止め効果がありますが、上塗りを塗るのにはあまり向いていません。種類も「無機ジンク」や「有機ジンク」などがあり、船舶や鋼構造物、橋梁用鋼材などを、腐食 から守るための防食下塗り塗料として使われています。
無機ジンクは防食性能にすぐれ、有機ジンクは施工性にすぐれているとされています。旧塗膜の上には塗ることが出来ません。鉄の上に直接塗る必要があります。その際のケレン作業(錆を除去)も行う必要があります。
ジンクリッチペイントで一般の方にも比較的認知度が高いのは、ローバル株式会社の「ローバル」です。ホームセンターなどでも見かけることがあります。
ローバル
メーカー ローバル株式会社
商品名 ローバル
タイプ 1液型塗料タイプ
種別 1液形有機系ジンクリッチペイント
私的備考:
ローバルは「常温亜鉛メッキ塗料」と呼ばれている、1液形有機系ジンクリッチペイントです。ジンクリッチペイント全般に言える事ですが、上塗りをすると泡が出る(発泡現象)事があり、上塗りを行う場合は専用の施工法が必要になります。刷毛などで溶剤塗料を上塗りすると、ローバルが溶けてしまう事もあるので、水性塗料などで上塗りをするなどが推奨されています。ローバルに限らず、ジンクリッチペイントは高い防錆力がありますが、塗料での上塗りを行うにはあまり向いていません。(ローバル株式会社より商品名など一部引用)
その他
この項の材料は私は使用した事がありません。使用した事はありませんが、使用感や評判などを見聞きして、機械があれば使用してみたいので紹介したいと思います。
シラグシタール
販売元 墨東化成工業株式会社、他
製造元 新技術創造研究所株式会社
商品名 シラグシタール
タイプ プライマータイプ
種別 液体ガラス・ガラスコーティング材
私的備考:
常温ガラスコーティング材で、防食用途だけではなく、様々な用途があるみたいで、どれも効果が高いみたいです。防食用途の場合は錆を綺麗に除去していなければいけないみたいです。錆止め材としての用途だけで考えた場合、材料の性質上、上塗り塗料などは基本的には塗れないそうです。この材料に関しては使用した事がないのでまったくわかりませんが、機会があれば使用してみたい材料です。 (墨東化成工業株式会社より商品名など一部引用)
POR-15
製造元 POR-15、INC
販売元 POR-15 SHOP スザキホームズ株式会社
商品名 POR-15
タイプ プライマータイプ
種別 1液型防錆塗料
私的備考:
主に車やバイクの錆補修などのジャンルでは知られているみたいです。強固な塗膜を形成するそうです。そのままでは上塗りは塗ることが出来ないのでタイコートプライマーという、プライマーを塗ってから上塗りをおこなうみたいです。この材料に関しては使用した事がないので全く分かりませんが、機会があれば使用してみたい材料です。また、殆ど外国語ですがyoutubeなどにも商品レビューなどがあげられています。 (POR-15 SHOPより商品名など一部引用)
使用した感想
今回紹介した「錆転換剤の項」の材料は、一般住宅の塗装にはあまり使用されてはいないと思います。(もちろん使用している業者もいます。)
一般住宅などの鉄部などの塗り替えなどでは、既に錆が発生している事が多いです。
鉄などの金属に塗装する場合は、いかにして錆の発生や再発を抑えるかが重要なので、ある意味では、材料よりもケレン作業の方が重要になります。そのケレン作業の労力を塗料を塗る事で補えるというのが、今回紹介した、補助剤や軽減剤、錆転換塗料などです。
もちろん、錆の除去作業は綺麗に錆を落とすことに越したことはありませんが 、上で紹介した材料などを使用すれば、ケレン作業の手間暇をおさえて錆を抑える事ができるそうなので、材料、工程とも増える事になりますが、使用する価値はあるのではないかと思っています。
DIYにお勧めの錆転換剤
DIYで錆止め材を使用する場合は、素人の方が塗料を塗るという事を考慮すると、株式会社BAN-ZIの「サビキラーPRO」がいいのではないかと思います。
他の材料ももちろんいい商品なのですが、サビキラーPROは「塗料タイプ」ですので、2度塗りすることによって、錆止め塗料を塗る必要がない事や、水性塗料なので作業性も良いかと思います。
上塗りも溶剤タイプも塗れますし、片付け、余った材料の保管なども考えると、いいのではないかと思います。
サンプル作成
ここでは私が実際にサビキラーPROを使用してみたサンプルを、画像で説明したいと思います。サンプルとして、「サビキラーPROと水性艶消し塗料(AEPではありません)」を塗ります。
比較対象として「水性艶消し塗料(AEPではありません)」を選んだ理由としては溶剤系の錆止め塗料では、直ぐに結果がわからない事と、同じ水性塗料という事で水性艶消し塗料を選びました。
水性錆止め塗料でも良かったのですが、これもまた直ぐには結果がでません。でませんが、錆止め塗料というのは「錆を綺麗に」落とさないと、本来の性能が発揮できないので、「錆を転換する」錆転換材と比べるのも有利不利がでてしまうので、目的の違う塗料で試しました。
※このサンプルは素人の方が見ても分かりやすくという目的から、錆を綺麗に落とさずに 錆止め効果のない水性塗料(AEPではありません)を塗って比較しています。
①
赤錆が出ている缶を用意しました。これに、「サビキラーPRO」と、「水性艶消し塗料(AEPではありません)」を塗ってみます。
②
錆取りたわし(マジックロン)で軽くこすって表面の錆を少し落としました。画像でわかる通りにまだ錆は残っています。マスキングテープを中央に貼って、「左側にサビキラーPRO」、「右側に水性艶消し塗料」を塗ります。
③
サビキラーPRO4Kg缶です。結果は分かっていますので、悪いイメージになるといけないので水性艶消し塗料(AEPではありません)は画像ではだせませんが、私が信用している塗料です。
④
「左側にサビキラーPRO」、「右側に水性艶消し塗料」を塗りました。サビキラーPROは「少し薄めて1回塗り」、水性艶消しは錆が見えなくなるように1回塗りです。少し厚めにベタベタ塗りました。
⑤
塗料を塗ってから2日間乾燥させた状態です。塗料を塗った日→次の日乾燥→その次の日の状態です。どちらも「点々」が確認できますが、サビキラーPROの方は「黒っぽい点々」なので、カタログ上の「黒錆に転換された状態」のようです。この上からもう一度塗り重ねると錆止め完了になりますが、今回は「1回塗り」で終わりです。
一方、水性艶消し塗料は明らかに赤錆が浮いてきたように見えます。錆を止める効果は全くない状態です。この状態で両方とも新たに重ね塗りせずにしばらく放置しようと思います。両方の塗料とも1回塗りで経過観察スタートです。
⑤
2年くらい前に実際にサビキラーPROを使用して鉄骨の塗装を行った工事があるのですが、現状では何とも言えない状態です。どの錆止め塗料でも2年位で錆が再発するのでは意味がないからです。それから「同じ条件(下地)」での比較がないので参考になりません。ですので、すぐに錆が発生するような条件で今回は行ってみました。
サンプルの続きはこちら
最後に
私が書いている記事の全てに言える事ですが、錆止め塗料や錆転換材に限らず、私の場合は材料にはそれぞれ一長一短があると思っています。私の場合は本業でもありますので、どのメーカーのどの材料が優れているなど、公の場で偏った情報や優劣は付けたくはないので、従って上で紹介している材料につきましても、「比較」ではなく「紹介」という事をおことわりしておきます。
今回はこの辺で。